セミナー報告
No.1天然更新や天然林施業はどこまで可能なのか
No.2長伐期林は伐期をのばすだけで作りうるのか
No.3地球温暖化は森林整備にどのような影響を与えるか
No.4森林情報のIT化は何を可能にするか
No.5森林情報は必要な事項が適確に把握されているのか
No.6森林整備目標は森林所有者等に徹底しうるものとなっているか
No.7造林コストはどこまで下げうるか
No.8望ましい森林施業を達成するための森林計画等はいかにあるべきか
No.9団地化、作業の集約化はどこまで進みうるか
No.10路網整備を加速化させるためには何をすべきか
No.11我が国に合った林業機械のあり方とは何か
No.12素材生産の生産性はどこまで向上させられるか
No.13国産材の供給可能量はどのように見通せるか
No.14住宅用需要に今後どのように対応すべきか
No.15国産材の製紙用需要はどこまで拡大できるか
No.16大型加工工場は国際競争力を持ち得たか。中小加工工場はどのように対応すべきか
No.17森林、林業、木材利用の改革についての意見
No.18今後の森林組合はいかにあるべきか
No.19望ましい林業労働者は確保されているか
No.20森林・林業の普及指導は有効に機能しているか
No.21大学の森林・林業教育は何を目指しているか
No.22林業高校は森林・林業技術者の育成を担いうるのか

PDFダウンロード資料
♦ 30の提言(素案)
♦ 30の提言(素案)に 対するご意見等
♦ 30の提言(最終版)
♦ シンポジウム議事録
♦ シンポジウム会場か らのご意見等

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セミナー報告

第4回セミナー 森林情報のIT化は何を可能にするか
講師:田中 和博 氏 (京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 教授) 講師:佐藤 亮 氏 (システムティーアンドエス副社長)


11月18日(火)の第4回セミナーでは、田中和博氏と佐藤亮氏を講師にお迎えして、標記のテーマで基調講演をいただき、その後、参加者の間でディスカッションを行いました。

基調講演の要旨は次のとおりです。

(1) 田中和博氏講演
森林情報においても、GPS、GIS、リモートセンシング等のITデジタル技術が積極的に利用されてきており、今まで以上に、きめ細かな森林管理や経営が可能になると考えられる。本報告では、森林経営におけるITデジタル技術の応用可能性、現状の問題点、より有効に活用されるための方策について述べる。

森林経営を取り巻く社会的な環境は、過去十数年の間に大きく変わってきている。1992年の地球サミットでは、森林原則声明が発表され、持続可能な森林経営が課題となり、モントリオールプロセス等の国際会議で森林経営のための基準と指標が定められた。その結果、生物多様性の保全や森林生態系の維持が森林経営の主要な課題になった。このことは、森林経営において経済林と環境林を区分して考える必要性を示している。また、地球サミットで提唱されたモデルフォレスト運動は世界20カ国40地域に拡がり、森林経営への住民参加も進みつつある。森林認証制度の導入により、森林経営は透明性や説明責任が求められるようになった。一方、CO2吸収源としての森林の役割や、木質バイオマスの利用についても関心が高まりつつある。さらに、国内においては、マツ枯れ、ナラ枯れ問題が生じており、クマ、シカ、サル、イノシシ等による獣害問題も深刻化している。

以上のような社会情勢の変化にもかかわらず、森林管理の基本情報は、森林簿と森林計画図のままである。GISの導入により、森林簿と森林計画図がリンクし、データベースとしての活用性は格段に進展したが、林小班による区分と森林簿との組み合わせだけでは、上述の様々な森林問題に対応することは難しくなってきている。なぜなら、小班や小班枝番号による森林管理手法は皆伐を前提とした仕組みであるからである。たとえば、長伐期化や複層林化に対しては、現況の森林簿は上手く対応できない。森林カルテのシステムに切り替える必要がある。また、高性能林業機械の導入により、いわゆる道端林業による間伐が進みつつあるが、小班界とは別の新たな林地区分の概念が必要になってきている。

さらに、より本質的な問題として、ポリゴンかポイントかという問題がある。既存の図面をGISにデータとして取り込む場合はポリゴンとして入力されるのが一般的であるが、最新の情報は、GPSによる経緯度情報を伴ったポイント情報で得られることが多い。この点においても、現在の森林簿をベースとする森林GISは対応できていない。なお、リモートセンシング衛星の画像は、広域のモニタリングに使われ、ポリゴンデータとしてGISに入力されることが多い。

京都では、平成18年11月に、(社)京都モデルフォレスト協会が設立され、森林情報の共有が課題になっている。京都府自然環境情報収集・発信ステムを利用して、ツキノワグマと外来生物(アライグマ、ヌートリア)の出没情報が収集され、それらの情報は京都府・市町村共同 統合型地理情報システム(WebGIS)によって情報発信されている。経済林については、日吉町森林組合の提案型集約化施業が注目を集めているが、この施業法が他の地域にも応用可能かGISの空間解析を応用した解析を進めている。その過程で、林道・作業道の路網計画に対するIT技術の応用が必要になってきている。

以上の例からも分かるように、現在の森林簿をベースとする型にはまったデータベースでは、現実の様々な森林問題には柔軟に対応することができない。これを解決するには、林業試験場等の研究機関において、森林情報技術の専門家集団が、各種のニーズに応じて森林情報をデジタル化し、GISの高度な空間解析機能を駆使して、現場で使える森林GIS情報を整備していくしかない。

森林情報のIT化は何を可能にするのかという問いは、高性能林業機械の導入は何を可能にするのかという問いとよく似ている。結局、高度な技術を持った人材やオペレータをいかにして育成していくかという問題に帰着する。また、どんなに高性能な機械であっても路網や燃料がないと動かせないのと同じように、どんなに高性能なGISソフトであっても、データを収集・発信・共有する仕組みやデータそのものがなければ解析が進まない。森林情報のIT化を有効に活用するためには、林業試験場型の森林GISの整備と人材育成が最重要課題である。

(講師講演要旨から)

(2) 佐藤亮氏講演
佐藤氏の講演においては、①森林情報IT化の必要性、②森林基本情報の問題点、③導入に於ける問題点、④「IT化」成功のカギ、について、実務者の視点から具体的かつ明確な現状説明と指摘がなされました。

(3) ディスカッション
基調講演の後、参加者の間でディスカッションが行われましたが、主に次の項目が論点となりました。

議事概要