平成17年度

薩摩つげをめぐるある事件木材じゃなかった薩摩つげ!? 鹿児島鹿児島市下曽山真一さん 若林至さん

薩摩つげにこだわり続ける下曽山さんと奥さん

つまり、増産できる対策をしておかなければならないということだった。
 そこで下曽山さんは、同じ薩摩つげの組合員であり、やはり親を継いで印材生産をしている若林至(わかばやしいたる)さん(53)とともに、行政に相談してみた。さらには、東京まで出向き、林野庁も訪ねてみた。

下曽山さんと行動を
共にした若林至さん

 すると、意外なことが判明したのである。
「つげは木材じゃない、ってことがわかったんです」
 どういうことなのだろう。つげが木材であることは、誰の目にも明らかなのだが……。
「畑を山林にする用途変更の対象の木材に、つげは入っていなかったんです。つげは、言ってみれば植木と同じ感覚なんですね。でも、山林にできないとなると税金の問題出てくる。調べて
みると、法務局の問題もあって、単なる増産がなかなか難しいということがわかったんです」
 何という皮肉であろう。老舗のブランド「薩摩つげ」に「増産」という新たな道が拓けたというのに、思いもよらない落とし穴が待ち受けていたのである。

●つげのこれから

 薩摩つげが町の「町木」とされている頴娃町では、森林組合がつげの苗木を生産し、町民に斡旋販売。育成にかかる分の半額を補助するという形でつげの生産をすすめている。
「つげは、手間をかけてもその価値は確実な、ある意味で貯蓄に近い財産なんです。でも、若い人はなかなかそんな将来のことに対する関心が薄い。この辺りでもつげを植えているのは、ほとんどが高齢者なんです。孫のためにと思ってやっているんだけれど、その孫たちはまだまだほかのことで頭がいっぱいですからね」と下曽山さんは嘆く。
 最近になって、下曽山さんのもとには少しばかり変わった依頼も増えていると言う。
「楽器の部品なんですよ。ヨーロッパにもつげはあったんですが、最近はまったく生産しなくなったようなんです。そのため、パイプオルガンや古楽器などの修復のための部品、またリュートの一部、それからフルートの口の部分やバイオリンの顎を載せる部分などの注文が来るようになってきました。さらに、洋楽器だけじゃなく、筑前琵琶のバチという依頼もある。また、彫刻や版木として求められることも多いんですよ。わたし自身驚いてます。つげはそんなに需要があったのかと思いましたね」
 時代に合わせて変わっていくニーズ。だが、つげには古く万葉の時代から日本人に愛されてきた脈々とした歴史もある。その魅力が今後も高く評価されていくことは間違いないだろう。
 そのためにも、少しでも増産の途が拓けることを期待したい。